2006年11月1日(水) 晴れ
テーマ変更「軽く」
 部屋を見回し、もう少し物を捨てようかと思う。といっても物持ちではないから、捨てられるものは限られてくる。
 鍋釜食器と家電類はないと立ち行かないので捨てられない。同じ意味で洗面所にあるものも必要だろう。衣服はそれなりに減量できるはずである。野外生活道具とカヌー関係、これは要る。逆に言えば布団は寝袋を使えばいい気がする。ギター二本(エレガットとクラシック)と譜面立て、要る。ボテ夫(サボテン)、要る。折りたたみの椅子、要らない。パソコン、要る。オーディオはパソコンとヘッドフォンで代用可能だ。鏡、要る。麻雀セット、とりあえず取っておく。
 後残るは部屋の三分の一を占拠している本と漫画、CD、DVDといったソフトの類である。しかし考えてみると、本と漫画の大半は特に手元に残しておきたいものではない。
 何だか現在の自分を、石から削り出しているような気分になる。結構楽しい。

2006年11月3日(金) 晴れ
活用
 自転車で走っていると、「末広亭」という屋号の看板が目に留まる。その瞬間頭に浮かんだのは、次の二つの情景だった。
 高校の廊下だ。荒れている。ゆらりと立つ人影に、数人の取巻きを引き連れた男が近づいていく。「よー、高田。最近調子乗ってるらしいじゃねーか」男は必要以上に、高田と呼んだ細身の若者に近づき、そこで突然胸倉を掴んだ。「あんまりすえひろがってんじゃねーぞ、ごらぁ」
 ベッドの中だ。一組の男女が裸身でいる。男は少し気だるげにタバコを吹かしている。もう片方の腕に、満足した顔で目をつぶった女は抱かれている。「ねぇ、タッ君聞いてぇ」「なんだい、マリ」「あたしね、今度また昇進しちゃった」「ほんとにぃ」「うん、チーフからぁ、マネージャーだって」「まったくぅ、マリはすえひろがり屋さんだなぁ」
 どちらにも共通して言えることは、登場人物が二人だということだ。だから何だ。

2006年11月11日(土)
愛国心
 実家に帰り、三日間、姪とみっちり遊んだ。パーカーのフードを被ってダースベイダーのテーマを口ずさむと大喜びする姪は、只今一歳だ。ちょっと気を抜くと、すぐおっぱいが欲しくなり大泣きする。おかげで三日間、ダースベイダーになること茶飯の如くであった。やってる間は泣き止み、ニコニコになる。
 夜、皆寝静まって一人でいる居間でテレビを点ける。ディスカバリーチャンネルというアメリカのドキュメント専門チャンネルをたまたま回すと、第二次世界大戦のサイパン島での戦闘について特集していた。生き残った日本人のじぃちゃんが、当時の様子を語っている。泣き声で居場所がばれるからと赤子を殺す様子の詳細を、夜の闇の中で聞く。将校の命令で実の母親が手をかけるそうだ。できない場合、兵士が首を絞めて窒息させる。
 皆でダースベイダーになれれば良かったのに、心からそう思う。国なんて、義務の見返りにサービスを受ける、単なるシステムだ。

2006年11月15日(水) 晴れ
三温四寒
 部屋の扉に鍵を掛けながら、陽気に気付いた。こういう日を英語ではインディアンサマーというのだったけなと頭の片隅に浮かべつつ、ユタ州の砂漠の日差しなどを思い描く。川沿いの道を自転車で走ると汗ばむ程で、我慢できずにコートの前を開けた。ひらひらさせながらのんびり漕ぐ。
 買った始めは気が付かなかったのだけれど、今の自転車はとても静かだ。人が歩いている真後ろに付けても、前の人は気が付かない。ベルもないので道を譲ってもらう時などは不便だが、こんな風に川音を聞きながらという時なんかには中々良い。
 何か獲物を狙っていたらしい猫の後ろを通り過ぎる。一メートル程の距離に近付くまで気が付かなかったらしく、ギアを変える音で振り返った猫は、文字通り飛び上がって驚き逃げていった。へっへっへ、音を立てないのはお前らだけじゃないぜと、阿呆な優越感に浸りながらまた漕ぐ。

2006年11月16日(木) 晴れ
具体
 ばーさるという言葉が、根拠不明なままに怖い。
 中学生の頃、仲間七、八人だけで、学校関連の宿泊施設に泊るということを何回かやった。当然夏の夜などは、怪談話で盛り上がる。ばーさるという言葉を聞いたのは、その時、友人のKが話した怪談でだったと思う。しかし困ったのは話しの詳細をまるで覚えていないことで、己の間抜け頭の加減に首を捻るばかりだが、えらく怖かったという印象だけが残っているのだから仕方が無い。夜道ですれ違った時にささやかれでもしたら、おひゃーと叫んで走り出すしかないだろう。
 紫鏡という言葉は、二十歳まで覚えていると死ぬと教えられた言葉だ。いつ覚えたのかさえも忘れている言葉だが、大して怖く思った記憶もない。とうに二十歳も過ぎて思い返しいるわけだが、当時としても「鏡屋さんの子供は大変だ、こりゃ」と、心中突っ込んでいたからだと思う。

2006年11月17日(金) 晴れ
浮沈
 電車の中で開高健著『オーパ!』を読んでいて、やっぱ旅だよ旅!という気分になる。しばらくアマゾン川流域にトリップしていると、ドアが開き、我が町だ。
 家に帰りザ・ホワイトストライプス『エレファント』をCDプレイヤーに突っ込む。イヤフォンを被り歌詞カード片手に似非英語を唸れば、やはり人生とは音楽なのだなと悟った。開始一秒から始まるギターのリフに腰を振っていると、友人から地元駅到着のメールが入る。
 初地元駅の友人をあちこち連れ回した。結局、ファーストフード店で話し込む。そのまま自宅にスライドして、かなり突っ込んだ話しをする。自分の考えを人前で話すと、より明瞭になる気がする。自分の中で「書く」ことへの比重がやはり一番大きいと気が付く。
 友人が帰り、珈琲を飲みながらこの文章を書いている。やっぱり何事も珈琲がなくては始まらないなと思う。移り気極まりない。

2006年11月18日(土) 晴れ
煩悩
 理性のたがが外れたのだった。四コマ漫画の週刊誌を眺めつつ、唸っている。
 昨夜の呑み会の後だった。十キロ程の道のりをチャリチャリ自転車で帰ったのだが、途中で暴挙に出た。まずはファミレスに入って、ハンバーグとご飯、味噌汁のセットを注文する。お新香一切れまで残さず食べ、吉村昭『破獄』をおもれーおもれー言いながら読み進めた。ファミレスを出たのは午前一時過ぎだ。そのまま途中のコンビニで缶コーヒーと肉まんを買う。はふはふ食いながら何故か自宅前を通り過ぎ、朝まで営業している蕎麦屋へ直行する。頼んだのは冷やしむじな蕎麦三百四十円だ。ずるずると麺最後の一本までを食べ尽くす。取って返し、家の近くのコンビニで四コマ週刊誌を買ったのだった。「今日は贅沢日和」と思ったのを覚えている。
 当然朝には理性が戻っている。まだ張っているような気がする腹を抱え、昨夜の自分にしきりに首を傾げる。贅沢合計が二千円か。

2006年11月20日(月) くもり
ダンス
 画面上では変な帽子をかぶった白人の男が、かくかくした動きを見せながら歌っている。見ているとたまらなくなり、やっぱり真似して踊ってしまうのだった。
 ジャミロクワイのベストアルバム『ハイタイムズ』を買った。DVD付き初回限定版を購入したのは、やはり『ヴァーチャルインサニティ』に代表されるプロモーションビデオが見たかったからだ。おかげで深夜の鏡の前に、息を切らせた男が一人たたずむという有様である。
 自らのイメージ通りに身体を動かす。簡単ではない。普段茶碗を持ち上げ、自転車を漕ぎ、歩き回っている自分の身体だ。思い通りに動くものとばかり考えがちだが、実際やってみると想像との違いに驚くこととなる。現実は小さな具体の積み上げだ。
 手を回し、足を振り、腰を振り、あるいは腰は振らずに足だけ動かす。そして鏡に映し出される図は滑稽である。笑う。

2006年11月23日(木) くもり
口福
 ドリアのご飯代わりにパスタが入っている。そういった食べ物だった。野郎二人、女性客ばかりのこジャレた店で食べている。
 始めはうどんを食べるつもりだった。ところがうどんの店は、昼の一時を待たずして麺が品切れだという。はるばる足を伸ばして来た友人の意気は消沈している。どうすべかと駅に向かっていると、件の店がひょっこり目に入った。時々前を通るのだが、雰囲気が洒落ていてなかなか入る気になれない店である。
 勢いで敷居を跨ぐ。昼だというのに薄暗い店内で席に着いた。「おい、何だこれ」メニューを見ると見慣れない名前の食べ物が書いてあって、さぁ大変だ。おまけに、いくつかの具を選択するようなのだが、頼み方も良く分からない。分かった振りで注文する。
 しかし出てきたのは寒い時には持って来いのあったか料理で、しかもうまかった。思わぬ口福で安心してこんぴらさんについて語る。洒落た店で、こんぴらさんについて語る。

2006年11月24日(金) 晴れ
暗い暗いという前に、進んで明かりを点けましょう
 調子、あるいは運というものについて考えている。例えばそれは、「あってしまうもの」なのだろうか、というようなことだ。
 昨日うどんを食べ損ねた友人が、また来た。電車で一時間半の道のりだ。そしてまたうどんは売り切れいている。
 カレーうどんを食べたかったそうだ。昨日も今日もスーツを着ていない。跳ねを気にしているのだ。細やかな心遣いだ。万全といってもいい。少し前に、友人はニューヨークに行った。海外出張だ。その時からもう、心にその店のうどんを思い描いていたらしい。昨日の失敗を反省して、時間ももっと早めにした。会社を定時より早く上がっている。気合の入れようも知れるというものだ。
 だけど売り切れ。
 代わりに入った蕎麦屋で話しをしながら、やはり運というものについて考える。それはあってしまうものなのか。来週友人は、再びやってくる。

2006年11月28日(火) くもり
都市伝説
 最近手に入れたのが、携帯式のデジタルオーディオプレイヤーだ。おかげで大変なことになっている。夜の住宅街などが特に危ない。酔っ払っているとなおさらだ。踊るからだ。
 頭では分かっているつもりだったが、相当数の楽曲を常に持ち歩けるという楽しさは想像以上だった。現在、歩いている時はほとんどイヤフォンを耳に突っ込んでいるわけだが、酔っ払った帰りに誰もいない深夜の住宅街でかかったのが、先日買ったジャミロクワイのベスト版だった。これが歩くリズムにぴったり合うノリノリな曲ばかりなのである。もういけない。
 手が指揮者の動きになる。頭をかくかく動かす。後ろ向きに歩く。一旦通り過ぎた道をムーンウォーク(だと本人は主張)で戻り、わざわざ踵だけでターンして曲がるなどするわけであって、厄介極まりない。
 こんな奴に夜道であったらおひゃーと叫んで逃げ出すしかあるまいという有様で、困る。




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