2007年6月1日(金) くもり/晴れ
中盛り
思い付き、実行してみて凹んだ。夜寝る前に、「もう、今日という日に用はねぇ」と呟いてみる。
「『忘れてました』じゃねー!」というような事があり、自棄になって喉仏の辺りまでラーメンを食べた夜だった。部屋に帰っても何も手が付かないので、もう寝ることにする。布団に潜り込んでふと言ってみたのが、冒頭の言葉だ。
かなり「くーる」だと思っていた。もしくは「はーどぼいるど」だ(「はーどぼいるど」って何だ)。
ところが予想に反して、一人の部屋に響き渡ったその言葉は、侘しい以外の何物でもない。お前は何を一人で言っているんだと、笑う。
これはいいなということで、これからも日課にして行くことにする。夜寝る前は「もう今日という日に用はねぇ」だ。
午後八時半の布団の中だ。
2007年6月3日(日) 晴れ
皆の目と書いて、皆目
以前テトリスに嵌ったことがある。テトリスとは、上から落ちてくるブロックを隙間なく埋めていくコンピューターゲームだ。単純だが、異常な程面白かった。終いには、現実の中でも隙間を埋めようとしていた。視界の中に隙間があると、どのブロックで埋めようかと無意識に考えた。最ものめり込んでいた時期には、ビルとビルの間埋めるように空から降ってくる巨大なブロックを、確かに見た。
で、それと同じような症状が出始めているのが、ドリブルだ。
毎日やっていたジョギングにボールを加え、ドリブルに変えたのは二日前だ。以来、空間を見つけると、どうドリブルで抜けていこうかと思い浮かべている自分がいる。
道路工事のカラーコーンなどが特に危ない。並べてあるカラーコーンの隙間を縫って、ジグザグに走りたくなるわけだ。
Jリーグデビューも、そう遠い未来ではなかろう。
2007年6月4日(月) 晴れ
最近、子供
ガブリエル・ガルシア=マルケスは小説家だ。ノーベル文学賞を取っている。実は、阿呆なのではなかろうか。「満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考えた」じゃない。
G・ガルシア=マルケス著「わが悲しき娼婦たちの思い出(新潮社、木村栄一訳)」を買った。千八百円は中々痛い出費だが、後悔は微塵も無い。久しぶりにわくわくしながら頁をめくっている。何せ冒頭の一文が「満九十歳の誕生日に〜」だ。期待するなという方が、無理だ。
これからますます高齢化が進む日本社会だ。もっと読まれて欲しい一文だ。「狂ったように愛」す。それは一体どんな愛し方だ。
川端康成著「眠れる美女」から、着想を得ているらしい。そちらも読みたくて仕方なくなっている。ガブリエル・ガルシア=マルケス、七十七歳、恐るべしだ。多分、年食ってから思い出す一文だと思う。
2007年6月5日(火) 晴れ
流れ
相当量のお酒を呑んでいる。心して帰ろうと、気を引き締める。
友人と駅の改札で別れたのは、夜の十一時を回った位だった。韓国料理屋ではマッコリが美味しく、呑み易さもあってかぱかぱ杯を空けていた。家までは結構な距離がある。自分の頬をパンパン叩いて、酔いを醒ました。
酔っ払って記憶を失くすようになったのは、一年程前からだ。他人の家の柱に頭突きをかまし、縫う羽目に陥った事もある。用心を重ねるに越したことは無い。横断歩道は右を見て左を見て、もう一回右を見て渡る。黄色は『急げ』ではなく『止まれ』だ。そして何より、眠いと思ったら休む。そういった一々を、自ら確認して出発した。
思ったより酔ってもいず、危なげは無い。だが交通規則に気を取られていると、中村一義メドレーを歌うのが止められないということに気が付いた。こちらを立てれば、あちらが立たない。世渡りのようだ。
2007年6月6日(水) 晴れ
地元
小料理屋では、家族が団欒をしている。
何か祝い事だろうか、徳利を傾ける親父さんの顔が嬉しそうだ。畳の席に座った四人の家族は、仲良さそうに皿を突付いている。
中華料理屋では、カップルが見詰め合っている。
台湾系の小皿料理のお店だ。以前入った事もあり、普通に美味しかったと記憶している。中々良い店を選ぶじゃないかと、同年代の男にエールを送った。店内は満席で騒がしかったが、二人の席の周りだけは別世界だ。
呑み屋は、親父達で溢れかえっている。
肴が安くて旨いと評判の店だ。一度入りたいと思いつつ、中々入れないでいる。昭和初期のまま時間が止まったような店内は、仕事帰りの親父達で埋め尽くされている。どの顔にも、「ビールが、美味い!」と書いてある。次こそ入ろうと、決心する。
何の事かと言えば、どのお店もドアを開け放っているという話しだ。風が良い季節だ。
2007年6月7日(木) 晴れ/雨
流れツー
毎日のドリブルを、夕方から朝方に変えてみた。じいちゃんばぁちゃんばっかりだ。
近所の公園の朝五時半だった。夕方には結構寂しい公園が賑わっている。犬を連れた散歩の人と、後はじいちゃんばぁちゃんだ。どうやら皆でラジオ体操をやるというイベントが、毎朝あるらしい。続々と終結するじいちゃんばぁちゃん達の中で、気が付けば自分一人だけが浮いている。
知らない世界とは、まだまだある。普段ふごふご鼾をかいて寝ている時に、こんなにも人が、活動的に集まっている場が近所にあるとは思ってもいなかった。
どうやら顔見知りも多いらしく、すれ違い様に「あら、お早う」「暑いわねぇ」なんてやっている声もちらほら耳にした。そんな中ドリブルをしている奴など当然自分一人で、「あら、まぁ速い速い」「凄いわねぇ」って、恥ずかしい事この上ない。
ご老人達の間を縫って走る、朝だ。
2007年6月8日(金) 晴れ/雨
多謝
嘘をついた。嘘が育った。大変に困る。嘘は良くない。
昔お世話になった人達の呑み会に参加させてもらった。楽しいのだが、自分はそこで一つ嘘をついている。天気に詳しいという嘘だ。で、事ある毎に天気の話題が振られる。内心冷や汗をかきながら、知識を総動員して答える。今まではなんとかしのいでいるが、辛い。早く嘘だと言い出したい。しかし、「あいつは天気に人生を懸けている」というような嘘の育ち方をしていて、今更「嘘だよーん」とは言い出せない空気だ。後悔している。
その日はおめでたいことがあっての集まりだった。花束贈呈が行われた。帰りがけに何故か、その花束の中から魔法使いの杖のように先端が丸くなっている竹を貰った。酔っ払いの行動に、理由はいらない。竹を振り回しつつ、夜道を辿る。
「嘘よ、なかったことになーれ」と竹を振っても、犬が吠えるだけの夜道を歩く。
2007年6月9日(土) 晴れ/くもり
昭和一桁
いつの間にか、魚肉ソーセージを上手く食べられるようになっている。成長の証は、思わぬ形で表れるものだ。
かつては、魚肉ソーセージを食べる時に非常な苦労をしていた。周りを覆っているあの赤いビニールを、きちんと剥くことが出来なかった。いつも歯で噛み千切って破き、ぼろぼろになったソーセージの破片を食べるという有様だった。
それが今ではどうだ。
赤いシール(これが何のためにあるのかすら、以前は考えなかった)を剥がし、切れ目が入っている部分を折るようにして上部のビニールを取る。そのまま静かにビニールを引いていくと、下まで一直線に裂け目を入れることが出来る。後はバナナのように段々剥いていきながら食べようが、いきなり全部剥ぎ取って丸ごと食べようが思いのままだ。
我ながら成長したなと思う。近年稀に見る誇らしさだ。
2007年6月10日(日) 晴れ/雨
朝夕二回
例えば、冷凍のミックスベジタブルを買うとしよう。そのまま解凍して塩を振り食べても、上手くない。そこで卵と玉葱を買い足し、オムレツにして食べる。問題はここからだ。
材料は、当然余る。もう一度同じ料理を作る手もあるが、それでは芸が無い。そこで、ジャガイモ、豚肉、長葱、えのき、おくらをさらに入手し、肉じゃが、長葱とえのきの卵とじ、メキシカン炒め(豚肉とミックスベジタブル、玉葱、おくらをタバスコで)を拵える。するとどうだ。次の日には、卵、玉葱、、ミックスベジタブル、じゃがいも、長葱、オクラが残る。これらの材料を含む料理を、また考えなければいけなくなる。ジャーマンポテトと、オクラ入り海草サラダ、というメニューで挑むと、次の残りは長葱、ベーコン、ワカメ、水菜、ミックスベジタブルだ。こうして日々の暮らしは続いていく。
ワカメ入り、和風カレーにして止めを刺す。その選択もありだ。
2007年6月11日(月) 雨/晴れ
異次元列車に飛び乗れ
扉が開くと、最前列のシートが空いていた。内心小躍りしながら、素早く座り込む。
夜、都市部の海沿いを走る電車に乗った。比較的最近開発された場所で、SFに出てくる未来都市のような異次元空間が続く。特等席から見るその景色に、「いずれ海面が上昇し、この景色も海の底へ没するだろう。一万年、二万年後、もし人類がまだ存続していたとして、海底に沈むこの建造物の群れを見て何を思うだろう。『海の上にこんなものを建ててまでして、一体彼らは何を追い求めたのだろうか』そんなことを思うかもしれない。そうだとすると、この景色こそはまさに蜃気楼のようなものだ。嗚呼!悲しきかな人間!虚しきかな浮世!」と、脳内小劇場に浸っていたが、それどころではない。普通に怖い。
街中に比べて光が無いレールの上を進むので、最前列だと相当にスピード感がある。
とりあえず生きて返してくれと願いつつ、無事終点に着いた。遊園地のような電車だ。
2007年6月12日(火) 晴れ
事態
数日前、朝のジョギングをしている時ふと見ると、道の傍らに烏が落ちていた。
どうやら巣から落ちた雛らしい。もう黒い毛は生え揃っているが、まだ顔が幼い。普段都会のハイエナギャング団のような顔で飛び回っている烏だが、やはり小さい時の動物は皆可愛い。「アー。アー」と頻りに鳴いている。側の電柱の上で、親と思しき二羽が「アー」と応える。可哀想だが、飛べない雛の運命は暗いだろうと考えていた。
そこに通りかかった散歩中の犬が、雛に食い付いた。さっそくだ。
引き綱を付けていなかった犬が、狩猟本能を刺激されたらしい。飼い主は、道の遥か向こうだ。親烏は泣き喚き、凄い騒ぎになった。一番近くを歩いていたおばちゃんが、「コラ、止めなさい!」と犬を叱り飛ばす。
で今日、朝ジョギングをしていると、件のおばちゃんが烏に襲われている。
とりあえず、おばちゃんは無事だった。
2007年6月13日(水) 晴れ
即
必ず上ってしまう階段がある。なぜだ。
とあるビルだ。六階と七階を行き来することが多い。六階から七階に移動する時は、何の問題も無い。
七階で用事を終え、さて六階に戻るかと踊り場に続く扉を開けた後が問題だ。次に気が付くと、自分のいる場所は八階の踊り場になっている。
安心が原因にあるとは思う。用事を済まして戻るので、七階の扉を開ける時は精神が弛緩し切っている。階段の風景は六階も七階も同じ様だから、勘違いをして上る。ありそうなことだ。だが、いつもとなると話しは別だ。
多分八階には、人食い蜘蛛男がいる。
蜘蛛男は特殊なフェロモンで人間をおびき寄せる。哀れな犠牲者が八階の扉を開けた次の瞬間には、鋼鉄以上の強度を誇る蜘蛛男の糸が、獲物をぐるぐる巻きにしているという寸法だ。
今日も危うく難を逃れた。やれやれだ。
2007年6月14日(木) 雨
チェンジ傘
ここはネギの国です。ネギの国の王都ネギックの大通りは、いつも人で賑わっています。特に今日はお城の舞踏会、着飾った貴族達の姿を一目見ようと、国中から人が集まって凄い人出です。
「あら、あれはもしかしてネギ姫様じゃない!?」「どこどこ!?」「ほら、今目の前を通る馬車よ」「ホント!ネギ姫様だわ。ほら、御手を振られて。まぁ何てネギネギしい」「あーもう行っちゃった。でも姫様の御姿を見れただけでも、来た甲斐があったじゃない」「ホントそうね。御小さかった姫様があんなにネギネギしくなられて・・・・・・」
一方、近頃特に悪い噂の絶えない大臣が、通るときは、「わ、見て。ネギーベよ。見てあのニラニラしい顔」「ほんと、何てニラニラしいのかしら」
玉葱入り卵ニラ餡かけを作っている途中、頭の中でネギーズが勝手にしゃべり始める。誰か、止めてくれ。
2007年6月15日(金) 雨/晴れ
血
バスを待ちながら、高橋源一郎著『虹の彼方に』を読んでいた。空いている右手を肩から提げた手提げ鞄に置くと、固い感触がある。金属の感触だ。まさかと思い取り出すと、鞄のポケットの中から腕時計が出てくる。
昨年死んだ叔父から、就職祝いに腕時計をもらった。太陽電池で動き、防水だ。愛用していたが、行方が分からなくなっていた。
最近他人の真似を良くする姪(一歳九ヶ月)は、どうもゴミ箱にゴミ捨てることを、ゲームか何かと勘違いしている節がある。いつも手の届く所に置いていた腕時計は、だから捨てられたかと思っていた。焼却場で焼かれている姿を想像した。
あるいは、酔って無くしたかとも推測した。腕から外し机の上に置いたまま、酔って記憶を失くす。店から出る時には、腕には何も付けていない。思い当たり過ぎて、二時間反省しても足りない。
その腕時計が、今ある。至極単純に嬉しい。
2007年6月18日(月) 晴れ
やっぱこれだ
生まれた土地の道を、夜走った。
川沿いの道は、小学生の頃の通学路だ。走れば五分とかからない距離を、仲間とわいわい、三十分はかけて帰っていた。どれだけ道草をしていたのかと思う。
夜の川沿いは暗い。小さな時は、こんな時刻にここを通ることなど怖くて、とてもではないが出来なかった。今は、夜風が心地良い、良いランニングコースだ。
やがて、電気屋を通り過ぎる。
そこは小学生の自分にとって『地の果て』で、そこから先は他の勢力が支配する『未知の土地』だった。普段のランニングが功を奏したのか、いとも簡単にその脇を走り抜けた。成長したものだ。疲れもほとんどない。良い調子だ。どこまででも行けそうな気がする。川はまだまだ続いている。調子に任せて、速度を上げた。
で、結局十キロ以上を走って帰ってくる。成長も大概にしておけと言いたい。
2007年6月17日(日) 晴れ
晴れ、家族
テレビを見ていると「日本人は昔から農耕民族で、互いに寄り添って暮らしていました。そこには暗黙の規範があった。それが現代では云々」と言っている人がいる。ブラウン管を金槌で割ろうかと思う。
まず、日本人の定義が曖昧だ。もし現在日本と呼ばれる国に住む人達を指すなら、アイヌ民族は農耕を主としていない。あるいは琉球の人はどうだ。闘莉王はどうだ。「そういったマイノリティではなく、大部分の人達のことです」という話しか。それは何やら詭弁の臭いがする。人間以外の動物を除く動物は二足歩行をします、と言われている気がする。
後、現代っていつからいつだ。バブルに狂った時は入るのか。国が兵士にヒロポン打って特攻させていた時はどうだ。『女工哀歌』の時はどうだ。規範ってどんな規範だ。
と、酒場でくだを巻く時は「とりあえずビール」と注文する。で、日本人だなと感じる。その日本人の、定義は何だ。
2007年6月18日(月) 晴れ
面談
久しぶりに、変なCDを買った。レキシの『レキシ』だ。その名の通り歴史上の事件について歌われた曲が十二曲収められている。名盤だ。
最近まで、金銭に余裕がなかった。その上、精神にも余裕がなかった。変なCDを買うのは久しぶりだなと気付き、そのことにも思い到る。精神に余裕がないと、真剣な音楽しか聴かなくなる傾向がある。真剣な音楽も楽しいが、やはりそればかりでは花も無い。近頃体が、変さを欲していた。
男二人、スピッツの曲を上から順番に徹夜で歌い通したことがある位、カラオケが好きだ。カラオケの為に、部屋で必死で歌う。練習したりする。
というわけで、今度一緒にカラオケに行く人は『真田記念日』、『参勤交代』、そして『兄じゃI need you』といった名曲の数々を聞かされることになる筈だ。
迷惑な話しだ。
2007年6月19日(火) 晴れ
視察
実家に忘れ物をした。携帯の充電器だ。無いと生活が立ち行かないので、仕方が無いが取りに行こうと自転車のサドルに跨った。片道二時間の道のりだ。
途中、小腹が空いたのでうどん屋に寄る。「おばちゃん、ぶっかけ!冷やで!!」と威勢良く注文する。会計をしようとザックの中をゴソゴソ探るが、あるべき筈のものが無い。財布を忘れている。
慌てて注文を取り消した。「財布、忘れてきました」と謝って、店を出る。しかしあれだけ威勢良く注文していた手前、店に居た客の内何人かは、事情に気が付いているだろう。頭の中でサ○エさんのテーマが鳴り響く。
恥ずかしさを堪えながら、来た道を引き返した。さすがに財布は、無いと困る。
結局、忘れ物を取りに行く途中で忘れ物に気が付き取って返してまた忘れ物を取りに行くという事態に陥っている。
己の阿呆さ加減が、身に沁みる。
2007年6月20日(水) 晴れ
悔しいなり
快晴の下、呼吸が止まらない。
フットサルをやっていて、過呼吸に陥る。普段のジョギングで、体力を過信していたことが原因だ。大丈夫だろうと四時間で睡眠を済まし、なんのなんのと一時間の道を自転車で走った後、フットサルのコートに立った。
開始して、自分のイメージ通りに体が動かないことに驚く。あれよあれよと言う間に、息が上がった。顔が赤くなり、びっくりする位汗が出始める。
何だかおかしいぞと不完全燃焼のまま二時間を終える。肩で息をしつつ休んでいて、呼吸が収まる気配が無い。なる程これが過呼吸というものかと、その時になって気が付いた。
取りあえず、体の欲するまま水分を取りまくる。それでも駄目なので、直接体を冷やそうと、シャワー室に向かった。
男だらけのシャワー室で、はぁはぁ言いながら水を浴びた。興奮しているわけではないんですと、心の中で言い訳を繰り返す。
2007年6月21日(木) 晴れ
そぞろ
友人と二人、街の雑踏の中、待っている。女の子を、待っている。
暮れかけた夕方の街には、心地良い風が吹いている。
「ギャル?」「いや、ギャルじゃないよ」
友人は落ち着かない。友人にとって初対面になる女の子を、今日は紹介する予定になっている。
外歩きには、最適な天気だ。空は気持ちよく晴れ渡り、夕日が綺麗に映えている。たくさんの人たちが、二人の前を通り過ぎる。
「あの子?あの子?」「いや。制服着てるじゃねーか。OLだって言ったでしょ」
友人は、落ち着かない。
「あれ?あれ?」「違う。十人じゃん。人数多すぎるでしょ」「あっち?あっち?」「だから、女子高生じゃねーっつーの」「あの人達?あの人達?」「どう見ても、男だろ!」「うぉー!緊張してきたーー!!」
友人は、雄叫びを上げる。街は暮れて行く。
2007年6月22日(金) くもり/雨
じん、じん、じん〜
「五万円未満の領収書が必要ないなんて、政治の世界はどうなってるんだ!」法人で経理を担当している男が口火を切った。普段一円に泣かされている男だ。もっともな怒りだ。
「全くねぇ、やりたい放題だね」役者の卵で、今は身分証の偽造を見抜くしている男が、話しを膨らませる。タンパク質の研究をしている男が、向かいの席で大きく頷く。
「ってことは、今四万九千九百九十九円の最中を売ったら、政治家にバカ売れなんじゃないか!?」閃いたアイディアをその場に投げ込んだのは、自分だ。我ながらすごい考えだと思う。一瞬場が色めき立つ。
「お前ね、分かってると思うけど、絶対に売れないからね。その政治家がよっぽど最中好きなら別だけど」コンピューターソフトの開発をしている男が、理路整然と突っ込んでくる。己の阿呆さ加減は、さらされ放題だ。
肉を焼き、ビールを呑む様をそれぞれの仕事内容で書いてみた。書いてみたんだ。
2007年6月23日(土) 晴れ
もて
アイスが美味しい季節になった。氷いちごのアイスが、好きだ。
酔っ払って地元の駅まで辿り着いた。そのまま部屋に帰ればいいのに、ふらりとコンビニ足が向く。アイスのボックスを覗くと、氷いちごアイスが光り輝いて見えた。百円を握り締めて、レジに向かう。
それから一時間、何故か深夜の地元を徘徊している。耳にはイヤフォン、唇には歌、そして片手には氷いちごアイスだ。誰もいない鉄橋の上から100S「ももとせ」を絶叫しつつ、氷いちごアイスを一口齧る。シャリシャリとした食感と程よい甘みが、口の中に広がる。気持ちが良い。だが、知り合いには絶対見せたくない姿だ。酔っ払いには、困ったものだ。
アルバム一枚分を歌い切り、降りた駅とは正反対の方向から部屋に向かった。気分爽快な目に、別のコンビニが飛び込んでくる。
当然、もう一本だ。
2007年6月25日(月) くもり/雨
ご近所
久しぶりに、悪口を言いたくなる状況に陥った。思う存分悪口を言う。楽し過ぎる。
「(指示が)てんでばらばらじゃないですか」「なぁ、俺たちにどうしろって話しだよなぁ」「しかもそれで怒るでしょ。意味分かりませんよ」もうこの辺からエンジンがかかってくる。
「で、その上、僕に対して怒るんですよ。僕は下にいたんだから、何が起こったのかも知ってるはずもないじゃないですか。そこでいきなり怒られたって『ハァ?』って話しですよ」「え!お前を怒ってたの?アホじゃねーの」ジェットコースターの上で、長渕剛「とんぼ」を絶叫するような爽快感だ。こうなってくると、文句を聞いている相手だって黙ってはいられない。
「俺、もうあいつを『さん付け』で呼びたくないよ。あれなんか『ヨッシー』で十分だ」「ぎゃはは、『ヨッシー』、似てる!似てる!」いいから仕事をしろ。
2007年6月27日(水) 晴れ
もやもや後
塀から、脚立が飛び出ている。
脚立は上から三分の一位の所までが見えている。おかしいのは、この脚立が斜めに飛び出ていることだ。
脚立は普通、真っ直ぐに立つ。真っ直ぐに立った脚立が塀から見えるなら、話しは分かる。ところがこの塀からは、閉じた脚立が斜めに飛び出している。不思議だ。
塀の向こうは、どうやら普通の庭付き一戸建てらしい。塀の高さは二メートル以上あり、向こう側がどうなっているのか覗くことは出来ない。しかも塀が二メートル以上ということは、斜めになった脚立の足は、当然地面についていないことになる。つまりこの脚立は宙に浮いているわけだ。
宙に浮く脚立だ。
一体どんな宇宙の法則がそこに働いているのか皆目見当がつかないまま、脚立が飛び出た塀は歴然と存在している。
塀の前で頭を捻りつつ、眺める。
2007年6月28日(木) 晴れ/くもり
だんすそーふぁにー、まい、らいふぃずそーふぁにー
一匹の蟻が、右手を歩き回っている。
甲から腕の内側に向けて、這い登ってくる。進むに連れ、たくさんの毛が行く手をさえぎる。それ程毛深いというわけではないが、改めて見ると、随分たくさん毛が生えているものだなと気が付いた。蟻に取ってはちょっとした障害物になるだろうが、何ら苦にすることなくちょこまかと進む。何をそんなに急ぐかと思う。
動き回る度、こそばゆい。ほとんど重さを感じさせない六本の足が、連続して触れる。独特の感触だ。だが我慢して、じっと動かない。蟻の行く末を見守る。
蟻は一旦肘の内側辺りまで来て、何を思ったか引き返した。ふらふらと迷走しつつも、今度は人差し指の先まで来て止まる。今だ。
今まで微動だにさせなかった手を振った。蟻は地面まで落ちて、何が起こったのか分からないのだろう、慌てた様子で走り去った。
梅雨の晴れ間の正午だ。暇だ。
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