2007年12月1日Sat. 晴れ
ぷー

 ガコンと、船は闇の中に滑り出す。これから、海賊が跳梁跋扈する大海原へ旅立つという寸法だ。そういう趣向の遊園地のアトラクションだ。以前乗ったのは十数年前になる。最近リニューアルしたらしい。それもあるのか、各段に怖さを感じなくなっていた。「これが大人ってやつか」そうおセンチになりかけた時だった。あいつらが出現する。
 酒場で女の尻を追い回している海賊の人形達、あれが怖い。
 女を追っかけまわす海賊を象った人形で、ニ体で一組になっている。女性と海賊が、ちょうど回転木馬のように、円形の台座に据えられ酒場の中をくるくる回っている。
 何が怖いって、彼等は一生そのままな事だ。海賊は女に追いつけないまま、女性は追っかけられたまま、衆人に注視される中、永遠に追いかけっこ続けなければならない。
 「○○○の海賊の刑」、聞くだに恐ろしい刑罰を発見した夜だ。

2007年12月10日Mon. 晴れ
めぐり

 自分が言った何事かで、人が動いてしまう事がある。
 アイルランドは良い。ケルト民族と、さらにそれ以前に住んでいたと言われる謎の民族の歴史に、思いを馳せるのも良い。妖精だって出る。旅をするなら、アイルランドだ。そう自信を持って言える。しかしこれが、相手が都会好きだと少々勝手が違う。「二週間、パブで呑んだくれるしかなかったぜ」そう怒られる羽目に陥る。ギネスビールだ。
 マルクス・エンゲルスという二人がいる。この人らが言って書いた事は、終には国まで作ってしまった。その事態を前にして、マルクス=エンゲルスは一体どう思っただろうか。「よっしゃよっしゃ」とほくそ笑んだだろうか。「あらー、そー、へー……」そう戸惑うだろうか。個人的に、後者なら友達になれそうな気がする。
 この文章を、貴重な休暇をアイルランド旅行に費やしたM先輩に奉げる。すんまそん。

2007年12月16日Sun. 晴れ
I’m here for

 YUKIのベストアルバム『FIVE STAR』を買ったのは、引越しをしたからだ。
 四年近く暮らした貸し部屋を引き払う時、これを機にと、マンガと本を新古書店に叩き売った。一万何ぼかの金になったため、帰りがけに中古のCDを物色する。で、目に止まったのがThe White Stripes『WHITE BLOOD CELLS』と、YUKIだったわけだ。
 音楽CDを買う事自体が久しぶりなのもあるが、嵌っている。新居は多少声を出しても大丈夫な場所なので、夜中でも何でも歌う。もちろん小声でではるが、段々エキサイトしてくるから困ったものだ。「ねえ見て もっと触れてみてよ/知ってる あたしの奥の方までずっと/好きにしていいの」そんな事を歌うおっさん声が、夜、二時間ばかり聞こえてくるとしたら、どうしたものか。
 おかげで寝不足になる。体調も崩す。YUKI疲れだ。阿呆だ。

2007年12月17日Mon. 晴れ
なぞ

 地下鉄に乗ってぼんやり考える事には、思考の焦点があっていない。
 地下鉄とはやはり、地下鉄道の略なのか。しかし、「地下鉄道」という言葉は、あまり聞いた記憶が無い。ミスドはミスタードーナッツで、マックはマクドでマクドナルドだ。ボン・ジョビのボーカルはジョン・ボン・ジョビだし、MK5はマジで恋する5秒前だったか?ワン。ツー。スリーフォーファイブ。
 地下鉄が「地下鉄道」じゃなかったら、一体何だろう。地下鉄鋼所か。嘘吐いてどうする。そういえば、都営地下鉄三田線の巣鴨駅では、常に正体不明の「ザー」という音が聞こえていた。話し声を大きくしなければならない位の音量で、他の駅では聞こえず、別の路線が近くを走っているわけでもなく、地上で雨が降ってもいないのに必ず聞こえていた。あれは、何の音だったんだろう。
 目の前を過ぎ行く壁を眺めながら、そんなことを考える。

2007年12月19日Wed. 晴れ
年末

 「そろそろ急募します」そう書かれた看板の前で、佇んでいる。
 とあるお店のアルバイト募集の看板だった。黒板二枚が脚立状にあわさった看板で、色とりどりなチョークで可愛らしく描かれている。高さは腰位だ。お店正面の自動ドア脇に置かれたそれは、人目を引く。特に一行目にでかでかと書かれた「そろそろ急募します」の文字は、嫌でも目に飛び込んでくる。
 もう少し早めに何とかできたんじゃないか。つくづくそう思う。
 アルバイトが少なくなっていることは、気付いていた。年末が書き入れ時で忙しくなる事も、毎年の事だから分かる。なのにずるずると引き伸ばしてしまった。「そろそろ急募」とは、そういう意味だろう。
 だが、看板全体の雰囲気は妙にきっぱりしているのは何故だ。断定調で書かれ、悔悟などというものとは無縁なこの言葉の前に、やはり、しばし、佇む。

2007年12月20日Thu. 晴れ
反省

 呑み会の翌朝、昨晩の自分を振り返る。大丈夫、ちゃんと節度を守って呑んでいた。青い顔でトイレに駆け込む事もなかったし、何よりも意識を保っていた。大丈夫だ。本当だ。本当か?
 「魚は骨があるから嫌いだ」と言う先輩に、「骨があるからって避けてたらなぁ、一生旨いモンには巡り合えねぇんだよ」と、わけのわからない理屈で説教していたのは、誰だ。年上の女性と同じ年齢に見えると言われた時に、「え〜、ショック!!」と叫んでいなかったか。その時の女性の顔を、お前は憶えているか。明らかに「このガキゃぁ……」って顔だったぞ。かといって後輩の女の子が、みんなからからかわれている時、「もう俺のナツミを責めるのは、止めて下さい!!」そう受けを取ろうとして、氷のような沈黙を呼び込んだりしていた事を、忘れたのか。
 芯まで冷える夜明けの街を歩きながら、昨晩の自分について考える。考える。

2007年12月27日Thu. 晴れ
「小確幸」Byハルキ

 コンコンコンコンコンコン……という音が、隣りの机から聞こえて来ている。ブリキのおもちゃの、太鼓を叩くような音だ。薄く張った金属を柔らかい物で優しく叩く音、それが小さな空間に反響した後、耳にまで届いて来る。
 この音の事は、よく知っている。目の前のパソコンのディスプレイを眺めながら、そう考える。冬になり、温もりが恋しくなる頃になると、聞こえてくる。自分でも、この音を立てることがある。
「取れた?」
 目は画面から離さずに、聞いてみた。
「駄目ですね。後一粒なんだけどなぁ。底にくっついてて……」
 そう応える声の後、再びコンコンコンコンコンコン……と続いた。
 冬、寒さ身に沁む季節、自動販売機で買う缶のコーンスープを飲むのは、幸せのひとつの形ではあるまいか。

2007年12月31日Mon. 晴れ
本年もお世話になりました

 港の駐車場に停めた車に、荷物を積み込む。年末に、海っぺりの宿に、男六人で押しかけるのをここ数年常としている。中学生の時からの見慣れた面子だ。よくもまぁ飽きないものだ。我が事ながら、そう思う。
 海は、風が強く波が高い。潮も上がっているようで、駐車場のすぐ下まで海面が迫っている。
「すげー、水位高けーな」
 いつの間にか仲間内の一人が隣りに来ていた。しばらく黙って、二人して海を眺める。
 気持ちの良い奴等だ。来年もこうやって、海を眺めたいものだ。そんな思いを風に乗せていると、友人が口を開いた。
「こんだけ、高いとさぁ、ちょっと雨でも降ったら大変な事になるよなぁ」
 「そうだよな」と納得しかけ、三秒考えて、視線を友人の顔に移す。そこにあるのは、海へと向かういたって真面目な視線だった。
 今年も、こんな終わり方だ。




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