2010年12月1日(水) 晴れ
テレビのキー局には、一局位、各時間の「15分」で区切りがある局があってもいいと思う。みんな整数時丁度で番組を終わらせるんじゃなく
 久しぶりに書く。じっくりと焦らず書く。
 約二年四ヶ月振りの日々記だ。間違いがあっては、無様な事この上ない。なけなしの自分の技術を思い出しながら、必死に書く。
 書くべき題材にピンと来ているか。切り口は新鮮か。題名はパンチがあって、なおかつ分かり易いか。文中の人称は統一されているか。文末の表現が「~だ」だったのが、途中から「~だわさ」に変わっていないか。同じ表現を近くの文で二度使っていないか。別のものを表すのに、同じ形容詞を二度使っていないか。比喩表現は適切か。何かを期待する高揚感を表すのに「会社の同期(女性)にボールペンを口にしながら仕事をしているのを見られた時に『あ、咥えてる』と言われた時位どきどきした」などと喩えていないか。お前は変態か。下ネタに頼ってなどいないか。そういった細則に、細心の注意を払って書く。
 そうやって書かれた文章こそ、我輩の楽しみとなるわけだわさ。またよろしくベイベー。

2010年12月2日(木) 晴れくもり
身体は物理法則を超えない
 左手を上げるには左足を上げなければならない。左手を上げるには左足だ。何故なら、そうしなければ左足を上げた分だけ左手が上がらないからだ。お前は何を言っているんだと問われれば、つまりクライミングの話しだ。
 「あそこで左足を上げれば、左手が届くはずなんですよ」そう言われて、心底納得したのは、様々な形状をした突起が無数に取り付けてある、三メートル程の壁の前だった。
 クライミングで、どうしても登れない壁があった。何度も挑戦した。その度に落ちた。蛙の様に落ちた。メンコのように叩き付けられた。蛆虫のように、ぼろぼろと、気持ち悪い感じで、「死ねばいいのに」といった侮蔑の言葉を投げかけるべき見本のように、地べた(マット)に這いつくばった。見かねた上級者の方がアドバイスしてくれたのが、上記の台詞だ。聞いた瞬間、全てが分かる。
 ご存じない方もいらっしゃると思うので、もう一度書く。左手を上げるには、左足だ。

2010年12月5日(日) 晴れ
後、電線を張る所も是非
 一生の内、一度で良いから見てみたいものに「山の中の鉄塔の建設現場」を挙げた所、笑われる。何故だ。
 山登りをしていると時折、心底驚かされる光景に出食わす。山中の鉄塔がそれだ。
 山の向こうへ電気を送るため、送電線を延ばす。問題はその送電線を支える鉄塔の位置で、小さなリュックでひぃこら山を登っている身としては在り得ない様な山の斜面の中腹に、突如場違いこの上ない巨大人工物が聳え立っていたりする。どう立てたんだ。
 もちろんヘリコプターで空輸等するのだろう。しかしそれにしたって謎だ。部品で運ぶのか。ならばその間、作業員は延々と待っているのか。それとも丸々一個か。その場合、鉄塔自体が空に浮かぶ光景となろう。空飛ぶ鉄塔だ。見たくないわけがない。
 そう熱弁を繰り返すと笑いが起こり、やがて皆の目が可哀想な人を見る目となる。何故だ。エッフェル塔より空飛ぶ鉄塔だってばよ。

2010年12月7日(火) くもり
似非ビート
 一九四五年の山田風太郎は、京都発の臨時無蓋貨車で一路飯田を目指す。無蓋、つまり屋根がないから、トンネルに入った時などは大変だ。汽車の吐き出す煙のせいで窒息しそうになる。しかしトンネルを抜け、煙が掃われれば、見上げる夜空に広がるのは天の川だ。山田青年は歌う。力一杯歌う。『戦中派不戦日記』での話しだ。
 一八九二年のジャックロンドンは、行き先も決めずに汽車に飛び乗る。文字通り、出発直後の列車に走っていって無理矢理乗る。一歩間違えれば死だ。何故そんな阿呆なことをするのか。それは彼がホーボーだからだ。財産を持たず、季節労働者として無賃乗車でアメリカ中を旅するホーボーだからだ。『ジャック・ロンドン放浪記』での話しだ。
 二〇一〇年の電車に乗りながら、そんな話しを読む。ウォークマンのイヤホンを耳に突っ込みながら読む。歌わない。飛び乗らない。でも音楽にノッて少し腰を振る。少しだ。

2010年12月14日(火) 晴れ
身体記憶
 アクセルをひねる。グイッと体が持っていかれる。この「グイッ」と感が堪らない
 原動機付き自転車、略して原付に乗り始めた。質量的、速度的に段違いな乗用車に後ろから追い立てる恐怖や、ギア操作を誤り交差点の真ん中で立ち往生しそうになる恐怖や、突然歩道から車道に飛び出してくる自転車を轢き殺しそうになる恐怖に耐えながら、それでも「原付おもしれー」と思うのは、今までの経験には全くなかった体感速度による。
 アクセルをほんの少しひねるだけで、自転車の全力疾走より速い速度まで一気に加速する。この「グイッ」と感は何とも説明出来ない「グイッ」だ。夢に出る。
 カヌーで岸から離れた後の一漕ぎ目の「サポッ」に似る。クライミングで足をアウトサイドで置くいわゆる「ひねりムーヴ」を行う時の「オリャッ」に似る。唇と唇が触れ合う瞬間の「フニュッ」に似る。自分でも落とし所がよく分からないまま、文章を綴る。




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